ぎふベジ


羽島れんこん田中 良三さんのお話(2025年1月取材)

羽島市は、木曽川と長良川に囲まれた湿田の多い地域。れんこん栽培に適した土地の特性を活かし、その生産量は岐阜県一を誇ります。
「今、羽島市役所の庁舎が建っておる場所も、70年ほど前は一帯がれんこん田だったですよ。」
そう話すのは、羽島の地で曽祖父の頃から代々に渡ってれんこん農家を営む田中良三さん。「備中」という品種を栽培し、個人出荷しています。

「この辺りは粘土質で保水性が高い土壌やもんで、良質なれんこんが育つんです。早いところではお盆過ぎから掘る農家もありますが、旬は秋から冬。10月の祭り明けに収穫し始めるところが多いですね。僕はお歳暮専用ですので、11月半ばから掘り始めて12月がピーク。年が明けて、ようやく落ち着きました。」

にこっと微笑む田中さんの目尻のシワに、その親しみやすい人柄がにじみ出ます。今年で82歳ながら、寒空の下でれんこんの収穫に精を出す姿は若々しく、年齢を全く感じさせません。

「高校卒業後に大型特殊免許を取得して、当時は珍しかったトレーラーの運転手になりました。まだ高速道路が建設途中で、舗装された道路がほとんどなかった時代です。6~7年働きましたが体をやらかしてまって、その後は繊維会社で60歳まで勤めました。定年退職してから専業農家になって、11月まで米の収穫、お歳暮時期の前後はれんこんを掘っておるというわけです。
芸は身を助けると言うけれど、小学生の頃から親父についてれんこん掘りを手伝っておりましたから、体が忘れとらんわね。」
れんこんの収穫は、最初に水を抜いた田の土を40~50cmほど掘り下げます。水分を含んだ泥は重く、備中グワとヘラを使って泥を取り除くのは結構な力作業。次に、泥から顔を出した若い芽や節を見て地下茎の向きを予測し、れんこんを折らないよう慎重に手掘りします。そのプロセスは、職人技と言っても過言ではありません。

「鮮度を保った状態でお客さんに届けるために、うちのれんこんは手掘りで泥付きの一本ものです。収穫して箱に詰め、送り状を貼って出荷まで、全部自分のところでやりますから、体力勝負。かみさんや娘が手伝ってくれるので助かっておりますが、天候がどうなるかがプレッシャーです。去年の暮れは天気がもってくれて良かったけど、雨や雪が降ったりしたら。泥付きが特徴やけど、その泥がベタベタになってしまって収穫になりませんので。」
れんこんは、複数の穴が開いた形状から「先を見通す」という意味を持つ縁起の良い食材。その到着を楽しみにしているお客さんを待たせるわけにはいかないと、田中さんは冬の間、毎朝7時かられんこん掘りへ向かいます。元気の秘訣は体力づくり。聞けば、32歳から40年ほど打ち込んだ柔道は有段者で、農作業の後、道場で子どもたちに稽古をつけていたこともあったのだとか。
「72歳で柔道を引退してからは、自宅でトレーニングしています。健康のためには、なまかわして(=さぼって)はいかんでね。れんこん農家の仲間では僕は若手のほうですから、まだまだがんばらないと。あとはやっぱりれんこんを食べるから、こんなに元気でおれるんです。ミネラルとビタミンCが豊富やで、土の中で育った野菜は食べなかんですね。」

農業にいそしむ傍ら、農事改良組合の組合長や地域の交通安全協会のリーダーなどを歴任し、地域社会にも貢献してきた田中さん。疲労回復や風邪予防にも効果のあるれんこんパワーを味方につけて、2月いっぱいまでの収穫を乗り切ります。

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