ぎふベジ


岐阜市園芸振興会 たまねぎ部会本田 忠男 会長のお話(2024年5月取材)

たまねぎは季節を問わず食べられる印象がありますが、みずみずしく甘みのある新たまねぎは3~5月が旬。5月末ごろ、岐阜市七郷地区の畑では、収穫を待ちきれない様子で新たまねぎが畑土から丸々とした顔を出していました。七郷地区と木田地区で米と小麦を作っている本田忠男さんは、田植えの合間に新たまねぎの収穫にいそしんでいます。

「たまねぎは一発勝負。種から蒔いて作っている分、苗の段階で失敗したらやり直しがききません。だから一番神経を使うけども、こうしてちゃんと育って無事に出荷できたらうれしいわね。」

ゆったりした口調で穏やかに話す本田さんは、現在76歳。七郷地区で生まれ育ち、工業高校卒業後、会社に就職し、62歳で定年退職するまでシステムエンジニア(以下「SE」)として活躍した。

「会社勤めをしながら、ちょこっとでも暇ができたら親の畑を手伝ってきた。親父は20年ほど前に亡くなりましたが、おふくろは1反(=約1000㎡)くらいの畑でいろいろ野菜を作ってぎふ農協の朝市で売っていました。僕は耕運機で土を起こしたりする力仕事を手伝いつつ、その後の作業は目からの学問。たまねぎの育て方も、見て学んで身につけたわけです。」
退職後、のんびり稲作に取り組み始めた本田さんのもとへ、一つの依頼が舞い込みました。
「株式会社七郷営農(以下「七郷営農」)という組織から、長らくやってきた農地の維持管理を手伝ってほしいという話がきました。継承者がいなかったり高齢化で耕作ができなくなった田畑を、地主さんから委託を受けて農作物を作るというものです。七郷営農は田畑を管理しながら、そこで収穫・販売した作物の代金は収益となるというのが条件です。」

物事をロジカルに捉えて作業効率を図るのは、会社員時代から本田さんが得意としてきたところ。今、七郷営農では地域の約55ha(=約550000㎡)の農地を管理し、本田さんはSE時代に培った知見を発揮しています。
「55haのうち30haの管理地で稲作を行なっています。他にも七郷営農には稲の刈り入れといった労働の依頼も来ますから、9月以降は収穫のタイミングと天候をにらめっこしながら人員のスケジュールを調整しています。たまねぎをはじめ、野菜づくりは米や小麦のように人員を投入すれば収益が上がるものでもありません。それでも出荷できなかった規格外品を地元の人に安く提供し、『おいしい』と喜んでもらえたら。」
そう言って、目を細める本田さん。体系的に農業と向き合いながら、地域に対する熱い想いは人一倍です。
「たまねぎも個人で作る人が減ってきて、このままでいくと近い将来ゼロになりかねません。たまねぎ作りは8月の土壌消毒から始まり、9月に畝(うね)を作って種を蒔き、覆土したら籾殻(もみがら)を散布して苗を育てるところが肝。1週間後、芽が出るかどうかが一番心配。出てこなかったらポシャだもん。そこからまた蒔き直すなんてできないからね。
そんな背景もあって、苗づくりはなかなか個人ではやれません。でも苗を買って大きくすることは個人でもできる。僕らの苗でたまねぎを育てる人が増えて、いろいろ裾野を広げていけたらと思います。」

人も土地も遊ばせてしまったらいかん。そんな想いに突き動かされ、本田さんはたまねぎを丹精込めて生産しながら、地域の農地の有効活用に挑み続けます。

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