ぎふベジ


岐阜市園芸振興会 ほうれんそう部会青木 基代司 部会長のお話(2022年1月取材)

冬場が旬のほうれんそうは、岐阜市島地区が代表的な産地。その栽培の歴史は50年以上と言われ、9月ごろ最初の種を蒔き始め、春までかけてその収穫は続きます。青木基代司さんは島地区で7代続く旧家の当主。幹線道路と住宅に囲まれた畑で、ほうれんそう栽培に精を出しています。

「町なかにある畑で驚かれたでしょう。40年ほど前の岐阜市の区画整理でこんな変形の畑になっていますが、祖父の代からここでほうれんそうを栽培しております。

戦前はこんにゃくを中心に作っておったようで、子どもの頃は『こんにゃく屋の息子!』と呼ばれたりしたもんです。ほうれんそうの繁忙期になると、親父が『いつまで遊んどる! 早よ手伝いに来い!』って小学校まで呼びに来てね。否が応なく、手伝わされとりました」

サラリーマン時代は兼業で野菜づくりに勤しみ、退職後の63歳から農業1本でやってきました。

「この畑で4月までほうれんそうをつくり、4月からはえだまめです。その収穫は6月後半から9月まで続きます。その後また、ほうれんそうの種まきが始まります。

去年の秋は高温続きで害虫が大量発生してね。消毒液の散布も間に合わず、9月に種まきしたばかりの新芽が食い散らかされてしまった。一反分、全部ダメで、トラクターで掻いて廃棄処分ですわ」

地球温暖化によるダメージもあるなか、青木さんの手がけるほうれんそうは露地栽培ならではの濃い緑色の葉と、しっかりとした味わいに定評があります。
「露地ものは、土地から直接栄養を吸収するから、緑の色がいいわね。とくに冬越しは植物の習性として寒さに耐えて糖分を貯めるもんで、だから甘いんやて。根元の赤い軸が美味しい証拠やわ」

そう言って、にっこり笑う青木さん。町なかの畑での栽培ならではの苦労もありながら、良質なほうれんそうづくりに余念がありません。

「本来、ほうれんそうは暗い状態で休ませなければいけないんやけど、ここは町なかだもんで街灯で夜も明るくてね。でもあんまり灯りを浴びると、軸ばかり伸びて商品になりません。また、良質なものを育てようと思うと肥やしがたくさん必要になってくる。それで種まきの前に鶏糞を撒くんですが、夏の暑い時期だからニオイが出るのがまた悩みの種で。周辺住民の方々にご迷惑のないよう、撒いたらすぐにトラクターで土を起こしています。次から次へと大急ぎでやらないといけないから、段取りが大変やわね」
市街地での農地経営は、地域住民との融和が欠かせません。青木さんはサラリーマン時代から、体育振興会や自治会の役員にも携わるなど地域貢献にも努めてきました。

「好きなジャズを流しながら、この作業場でほうれんそうを袋詰めしとると、毎日誰か友だちがやってきて1時間、2時間と話し込んで帰っていきます。おかげさんで、こっちも楽しく働いとります。
よく『露地栽培は大変やね』と言われるけど、夫婦ふたりでボチボチやっとるもんだで、収穫も年1回半。先祖から譲り受けた土地ですから、無理せずやっていけたらいいと思っています」

サラリーマン時代からのお付き合いで、退職後はロータリークラブに参加したり、週末は好きなお酒を飲みに出かけることも。そうした息抜きが、青木さんにとっての良いモチベーションアップにつながっています。地球温暖化や栽培環境とも真摯に向き合いながら、これからも青木さんにしかつくれない、味わい深いほうれんそうづくりに邁進します。

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