ぎふベジ


ハウスこまつな出荷組合永田 俊幸 会長のお話(2020年9月取材)

夏期は種まきから収穫まで約30日。生育が早く、比較的育てやすいといわれるこまつなは、長良川以北でも栽培されています。合渡地区で3連棟型ハウス7棟を共同経営している永田俊幸さんは、今年でこまつな栽培歴約30年。作付けは年4回程度で、シーズン一番のえだまめを収穫した後、こまつなを栽培しています。

「農業に入る前は、地元の大学を卒業して一宮市の繊維会社にサラリーマン生活をしていました。両親が畑作をしている姿をずっと見て育ちましたが、天候には左右されるし、年中働いているイメージがあってね。僕はやるつもりはありませんでした。ところが親父は体が弱くて畑ができなくなってしまった。それで長男の僕が継ぐことにしました。34歳のときです。」

農業転向を後押ししたのは、永田さんが学生時代から入っていた地元青年団の仲間たちでした。
「青年団には実家を継いで農業を営んでいた同級生や先輩もいてね。親父の畑をどうしようかと相談したら、『全部、俺が教えてやる』と言ってくれて覚悟を決めました。あれは心強かった。当時、夏はえだまめ、冬はほうれんそうを露地栽培していたんですが、ちょうど前進出荷(通常期より早期に出荷できるようにすること)が盛んになり始めた頃で。仲間の力を借りて、かまぼこ型のパイプハウスを建てました。」

この頃、多くの生産者はえだまめの収穫期終了後にしばらく手つかずになる畑をどう有効活用すべきか模索中でした。そして、永田さんらの元にも農業改良普及センター(現:岐阜農林事務所農業普及課)からこまつな栽培の指導が入りました。
「実際、畑を遊ばせておくのはもったいないので、ハウスでほうれんそうとこまつなを栽培し始めました。ほうれんそうは、害虫防除を回避するための土壌消毒が不可欠。クロルピクリンを土に注入する作業なんですが、これが大変なんやわ。それでほうれんそうはやめて、以来、こまつな中心でやっています。」
こうして岐阜市のこまつな栽培の先駆けとなった永田さんたちは、出荷量をグンと増やして急成長。組合をつくり、最盛期は約12人で栽培に勤しみました。
「売上は伸びましたが、台風に悩まされてきました。ハウスのビニールが弱く破れて飛ばされたり、強度の高いビニールに張り替えると今度はパイプごとグシャっと潰れたり。うちも3棟ほど強風にやられました。それで出荷できない状況が重なると、畑の維持が困難になって農家を辞める人も出てきました。
それなら台風にも負けない丈夫なハウスを作ろうと、JAに広い土地を探してもらって平成8(1996)年に建てたのが、今のハウスです。」
5日おきに種をまき、30日後に収穫する-そのルーティンを長年、実直にこなしてきた永田さん。
「農作物は人が生きる上で無くてはならない食糧です。しかもこまつなは栄養満点の緑黄色野菜やからね。農業を営む人なら『生きるための仕事に携わっている』という自負があるんやないかな。どんな時代になろうが食っていける、そこが農業の魅力やね。」

昨年から20代の女性パートさんが出荷手伝いに加わり、作業場は明るく和やかな雰囲気に。
「新規就農者でこまつなをやりたい人がいたら、僕の知っていることは全部教えたいね」と、永田さんの日焼けした顔に白い歯がこぼれます。ベテランこまつな生産者が引退する日は、まだまだ先になりそうです。

おいしい
岐阜の野菜たち

旬の暦