ぎふベジ


トマトハウス経営者藤井 美香さんのお話(2022年2月取材)

岐阜のトマトは、夏が旬の高冷地栽培のものだけではありません。冬から春にかけて、平坦地で栽培されたトマトが旬を迎えます。岐阜市三輪地区でトマト栽培に勤しむ若き農家、藤井美香さんのハウスでは、桃太郎ネクストとミニトマトの収穫で忙しい毎日が続いています。

「トマトの栽培方法をはじめて知ったのは、18歳の頃です。新卒で就職した農業生産法人がトマト栽培の事業に取り組み始めて、その担当として白羽の矢が立ったのが、岐阜農林高校出身の私だったんです。入社一年目の私で本当にいいのだろうかと思いましたが、戸惑っているヒマなんてありません。パートさんの勤務管理、月々の収穫量の計画、出荷、植替えの予定表づくりなどなど、やることがいっぱいでしたから。
他部署の方々もトマト栽培は未経験だったので、作業上のわからないことは県の農業普及指導員さんらに指導を仰いで仕事を覚えていきました。」

藤井さんが習得したのは、トマト独立ポット耕栽培システムという岐阜県農業技術センターが開発した技術。高収量で作業姿勢に無理がなく、土壌消毒が不要のため環境にもやさしいのが特徴です。
「開発会社の栽培担当の方からもたくさんお話を聞きました。私はトマトのことも害虫被害についても、高校で学んだ教科書程度の知識しかありません。しおれたり枯れたりするたび、それが害虫被害なのか病気が原因か、どう対策するのかと、普及指導員さんや開発会社の方に質問ばかりしていましたね。」
サバサバとした口調でそう話す藤井さんですが、へこたれそうになって人知れず泣いた経験もありました。しかし、それ以上にトマト栽培の面白さに魅了されていきました。
「実家が農業を営んでいたこともあり、いつか家業も継ぎつつトマト栽培も始められたらと考えるようになって。普及指導員さんから新規就農者支援制度*1についてのお話を聞いたり情報を集めて、独立に向けて足場を固めていきました。
ところが父が猛反対で。ハウス栽培の経験があった父は、ビニールの張り替えや台風被害、温度管理の難しさなどから『止めておけ』と言うんです。たしかに当時はそうだったかもしれません。でも今は農業もIT化が進み、ビニールの開閉も温度管理もすべて機械化されていますから、リスクは減っているんです。
私はとにかくトマト栽培をやりたかったので、実家を継ぐことは諦めて自分で始めることにしたんです。」
こうして藤井さんは、3年間勤めた農業生産法人を退職。独立準備に東奔西走しながら、23歳のとき、親戚のツテで1500㎡の耕作放棄地を借り5連棟のハウスを建てました。
「一年目は労働力不足で失敗しました。会社員時代はやらずに済んでいた出荷作業を自分でやらなければならず、出荷作業と栽培管理のバランスが上手く取れなくなってしまったんです。できたトマトは出さなきゃと考えるあまり、栽培管理が後追いになったことで病気は出る、害虫は出るで。結局、採れなくなったんです。
それでパートさんを雇って作業分担し、計画書通りの収穫量をクリアしています。」
失敗も藤井さんにとっては良き学びに。ハウスオーナーになって今年で6年目ですが、藤井さんは好きなことを生業(なりわい)とする充実感でキラキラと輝いて見えます。彼女を衝き動かすものは、「美味しいトマトを作りたい」「儲かる農業をやりたい」という二つの思い。コロナ禍からの家食増加を追い風に、これからも藤井さんの快進撃は続きます。

新規就農者支援制度*1 
https://www.maff.go.jp/j/new_farmer/nintei_syunou.html

おいしい
岐阜の野菜たち

旬の暦