羽島市ぎんなん出荷組合後藤 清 会長のお話(2023年10月取材)
東海道新幹線が停まる岐阜羽島駅でおなじみの羽島市は、岐阜県有数のぎんなん産地です。10月中旬、羽島市のイチョウの木々は葉が黄色に色づくのも待てない様子で、たわわに実をつけていました。品種は飛騨・美濃伝統野菜に認定されている「藤九郎」。一般のぎんなんより粒が大きく、薄めの殼が特徴です。ぎんなん農家の後藤清さんのところでも収穫が始まっていました。
「20cmほどの苗木をね、2本植えたら、31年でこんなに大きくなりました。そんでも実が穫れるようになったのは10年経ってからやね。最初はご近所さんにお付き合い程度に配るほどしか穫れなかったの。それが木の成長に伴って多く収穫できるようになったんです。去年が過去最高の出荷量でした。」
ニコニコとうれしそうに語る後藤さんは、御年75歳。40代から農業に入ったそうです。
「親父が61歳で亡くなってしまってね。私は窯業(ようぎょう)系の会社に勤めておりましたから、急に田畑を継ぐことになり、どうしようかと途方に暮れました。就職した10代の頃は高度経済成長期の真っただ中。毎年の賃金ベースアップも良くてね。働きながら定時制高校、岐阜大学工業短期大学(1994年廃止)と7年間、夜学に通い、忙しい時代を送りました。定年退職後も勤めましたので、長く農業との二足のわらじを履いておりました。」
「ぎんなんは稲やブロッコリーのように苗や肥料といった費用がかかりません。成長するまでの10年、実をつけるまでは全くの無農薬で何も手をかけなくて良かったわけです。落ち葉はもちろん、出荷用に分離した果肉部分も根元に戻して堆肥にしています。冬場、葉が落ちると枝が混み合っている場所が分かる。夏、葉が生い茂ったときに実の成長に影響しますし、風通しが悪いと菌がつく原因になるので、樹木が休眠中の1月頃、枝を剪定しています。」
作業効率が上がったことに加え、昨年は高値で取引され、出荷量、売上ともに大満足だったという後藤さん。今シーズンは台風被害にも見舞われず品質も上々とのことで、昨年並みの取引単価が期待されるところです。
ぎんなんの収穫はなかなかの労働ですが、後藤さんにとってイチョウは設備投資も手間も要らない“宝のなる樹”。ありがたい副収入源としながら、藤久郎品種を守り続けます。