ぎふベジ


岐阜市 なし部会加藤 豊司 部会長のお話(2021年9月取材)

8月の幸水の収穫が一段落し、9月は豊水の出荷が最盛期を迎える、岐阜のなし栽培。加藤豊司さんが部会長を務める『岐阜市なし部会』では、ぎふクリーン農業*を取得して安全・安心ななしの生産に取り組んでいます。

* ぎふクリーン農業……有機物等を有効に活用した土づくり並びに環境への負荷の大きい化学肥料、化学合成農薬等の効率的な使用と節減を基本とし、生産性と調和できる実践可能な環境にやさしい農業。

「なしの栽培は親父の代からやっております。もともと水稲をしていましたが、1970年代に減反政策があってね。そのとき、圃場に柿を入れて果樹栽培に転向しました。私が中学生になった頃には、なしも作り始めていたような記憶があります。うちだけじゃなく、この地区一帯が米の生産から果樹栽培に転換したんです。学生時代から休みの日になると畑を手伝わされておりましたね。えらい汗かいて作業するもんだから、楽しんで手伝ったことはなかったわね(笑)。」

将来的には果樹畑を継ぐのだろうという思いを持ちながら、加藤さんが高校卒業後に就いた職業は警察官でした。

「私は今年で72歳ですが、59歳まで警察に勤めておりました。定年退職まではあと一年でしたが、親父が体を悪くしてしまってね。親父の手伝いを一所懸命してくれていた家内に、これ以上負担がかかってはいかんと思って退職しました。私がなしづくりを本格的に始めたのはそこからだから、家内の方がなしづくりに関しては先輩だわね。」

そう言ってニコニコ微笑む加藤さんの視線の先には、奥様の洋子さん。なし栽培に不可欠な摘果(てきか)作業は洋子さんの担当です。

「なしは花が咲くと全部、実をつけるんです。規格の良いなしを育てるために、良形の実を何個か残して後はすべて落とすんです。長雨が続くと実が水分を含んではぜてしまったりするので、いろいろ考えて落とさないといけないし、摘果は本当に責任重大よ。」

やわらかな口調でそう答えてくれた洋子さんも、「難しくてできない」と話すのが剪定作業。加藤さんが苦心するところです。
「見様見真似で大体の栽培の仕方は分かったつもりでおりましたが、親父からきちんと教わった技術がないのは悔やまれるところですわね。とくに剪定は、教わっておけば良かったと思います。幸い、今は県の普及指導員の方が教えてくださいますから、助かっております。」

夫婦二人三脚でのなしづくりも今年で13年目。豊水は例年通りの収穫量になりそうだと、夫婦揃って穏やかな表情を浮かべます。

「幸水は長雨の関係で黒星病が出てしまってね、収穫量は例年の半分以下でした。不思議なもので、量が穫れないなりに市場単価が良いときもあって。よそのなし農家さんも今年は穫れていませんでしたからね。逆にたくさん穫れたら単価が下がることもあるので、一概に良し悪しは判断できんのです。そこが農業の醍醐味でもあるわね。」
数年前から新たな品種のあきづきの栽培をスタート。味も良く、果形にバラツキの無いあきづきの収穫を本格化させるべく、奮闘しています。そんな加藤さんの懸念は、岐阜のなしの存続問題。

「うちに限らず、どこも後継者不在は深刻です。跡取りがなく廃業するような圃場があるなら、現存のまま新規就農者に引き継ぐなどできないものかと部会でも対策を考えているところです。」

誇るべき岐阜のなしをなんとか残したいーーその思いにつき動かされるように、加藤さんは奥様とともに高品質ななしづくりに邁進し続けます。

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