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岐阜市園芸振興会 ほうれんそう部会近藤 徹 会長のお話(2019年12月取材)

岐阜市の中心部にほど近い長良川以北の肥沃な砂壌土に恵まれた島地区は50年余の栽培の歴史を誇る、ほうれんそうの特産地。収穫は10月にはじまり、冬を越して4月まで続きます。岐阜市園芸振興会で130戸のほうれんそう農家を束ねる近藤徹さんも、収穫と出荷で慌ただしい毎日を過ごしています。

「52歳でこの道に入って、ほうれんそう栽培はまだ14年目です。代々、この島地区で農業を営む家に生まれましたが、若いうちはあまり継ぐ気はなかったです。それで親父の勧めもあって、高校卒業後は機械系の会社に就職しました。今思えば、親父も本心ではなかったでしょうね。その親父が70代のときに脳梗塞で倒れてしまって。これは僕がやるしかないと、32年勤めた会社を辞めました。農作業はたまに手伝っていましたが、一年を通しての栽培経験はゼロ。もう最初は戸惑うばかりでしたね。」

対峙するものが機械油から土へと変わり、近藤さんは50代にして一から栽培のノウハウを学ぶ日々が始まりました。
「自分で種を播いたり収穫したりしたことが一回もないもんで、いつ肥料をやっていつ消毒をやってとかまったくわからない。幸いに親父が復帰したので、3年ほど一緒にやれたのがありがたかったですね。おかげさまでそれなりに技術は身につきました。」
多くの農業従事者がそうであるように、近藤さんも天候との付き合い方がもっとも難しいと感じるところです。10年ほど経験を積み、ようやく農作業にも慣れてきた頃、近藤さんは初めて台風被害を経験しました。
「9月だったか、その年の台風は雨がひどくてね。5cmくらいまで育ったほうれんそうが、雨の影響で葉が黄色くなっちゃって。そんな経験したことが無かったもんだから、復活させる方法もわからない。部会や町内の人に聞いて、葉っぱに直接、肥料を撒く葉面散布にたどり着きました。なんとか葉の元気を取り戻せたものの、根も傷んでいたのかそれ以上、成長しませんでした。結局、ほとんど廃棄です。畑1枚分、ダメにしました。」
天候と上手く付き合っていくには、こうした経験の積み重ねも不可欠です。今年の秋も長雨が続きましたが、近藤さんはこの時の経験を生かし、無事に出荷へと漕ぎ着けたそうです。
「ほうれんそうは、雨が降って翌日暖かいとグンと伸びるんです。霜や雪はあたればあたるだけ美味しさが増す。あんまり雪が降ると重みで軸折れすることもありますが、ただ解けるのを待つだけです。びちゃびちゃでは出荷できませんから」と、今では天候の変化に動じることなく、穏やかに農業と向き合います。
現在、出荷用のほうれんそうとは別に10数種類の試験栽培を実施。島地区のほうれんそうの伝統と歴史を守っていくため、品質向上にも余念がありません。
「栽培技術に関しては、まだまだ覚えたいことがいっぱいあります。人とのふれあいや会話を通して、情報を吸収していきたいと思います。」
温厚な人柄がにじみ出る、やわらかな口調でそう語った近藤さん。言葉の端々から、ほうれんそう作りに対するブレない信念が見え隠れしていました。「島地区のほうれんそう従事者の平均年齢は71歳。僕なんかまだまだ」と笑いながら、謙虚な姿勢で島地区のほうれんそうの発展に邁進し続けます。  

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