ぎふベジ


JAぎふ ぶどう部会酒井 政彦 会長のお話(2022年7月取材)

長良川に夏の訪れを告げるのは、鵜飼観覧船だけではありません。右岸河畔を走る県道94号沿いにずらりと軒を連ねるぶどう直売所もまた、この季節ならではの風物詩。ぶどう部会の酒井政彦部会長が営む志段見地区のぶどう園ではデラウエアが最盛期を迎え、今年も7月中旬から右岸の直売所での販売が始まりました。

「うちは代々この辺りでぶどう園を営んできたようです。ただ、父は公務員でしたので、栽培も収穫も母が中心となってやっていました。父が本格的にぶどう専門でやり始めたのは退職後のことで、その頃から直売所で販売しています。私も長らく教員生活をしておりましたので、ぶどうは手伝い程度しかやったことがなかったんです。」

落ち着いた佇まいで口調も穏やかに話す酒井さん。数年前まで校長先生をされていたとのことで、ぶどう生産者に転身してまだ3年目の新米だそう。
「岐阜市の日野小学校で5年間、校長を務めさせていただきました。退職後は教育関係の仕事をしておりましたが、3年前に父が亡くなり、64歳のときに後を継ぎました。
教員時代は理科が専門教科でしたので、植物を育てるのは得意なほうでしたが、実際にぶどう園を経営してみると自然環境の影響の大きさに一喜一憂する毎日です。ぶどうはとても繊細な果実で、長雨、日照りと天候一つで全滅してしまうこともある。父が元気だった頃は言われたことを手伝ってきただけですので、正直、戸惑ってばかりです。」
昨年は長引いた梅雨の影響で、収穫期を目前にデラウェアの大半を廃棄しなければならないという憂き目を経験しました。
「ぶどう粒は水分を含みすぎると皮に亀裂ができて、爆(は)ぜてしまう。しかも一房、二房でなく、爆ぜるときは全部一斉です。爆ぜたところから病気が入ってしまいますので売り物になりません。上手くいけば1万個以上採れるんですが、去年収穫できたのは6,000個ほどでした。どうしたら爆ぜないぶどう粒になるのかと、房を切って実る粒数を減らしたり、作業時期を微妙にずらしたりするのですが、その見極めが難しくて。JAから技術指導を仰いだり部会の方にも聞いて教えてもらったりしていますが、畑によって土も違えば肥料の量も違って同じようにはできません。ずっと暗中模索しております。」
農業の難しさに直面しながらも酒井さんの表情に悲壮感は全くなく、むしろ研究者魂に静かに火を灯すような使命感が見え隠れします。
「ぶどう果樹は20〜30年経ってやっと一人前のぶどうがなるんです。うちではシャインマスカットが、今一番果樹として成熟した良い時期を迎えています。果樹は手をかけずに一年でも放っておくと、次の年には木がダメになり実をつけなくなってしまうんです。ですから収穫の傍らで、今ある果樹をみんな元気な良い状態で来年につなげる、その作業で精一杯な毎日です。」
直売所では奥様がお店番をすることが多いそうですが、毎年足を運んでくれるリピーター客との再会や、お客様から「美味しい」と喜んでもらえることが酒井さんにとっての活力に。
「志段見には13軒のぶどう園があって、7月中旬〜9月いっぱいまで全部で20数種類のぶどうが直売所に出されるんです。7月下旬はデラウェア、バッファロー、ヒムロッドシードレス。8月に入ると巨峰やシャインマスカットと、それぞれのぶどう園が手塩にかけて育てたぶどうが並びます。スーパーの市販品とはひと味違った楽しみ方ができますから、県外ナンバーの車もたくさん見えますよ。」

そう言って、日に焼けた顔でやわらかく微笑む酒井さん。七転び八起きの精神で、この夏も収穫と果樹の維持に全力を注ぎます。

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