ぎふベジ


岐阜市園芸振興会 いちご生産者小野 一樹さんのお話(2024年2月取材)

大粒で、ほんのり朱色を帯びた艶やかな赤の果実が特徴的な「美濃娘」。岐阜いちごを代表する品種の一つです。収穫は12月に始まって5月いっぱいまで続き、3月は最盛期。いちごづくりに携わりまだ4年目という岐阜市合渡地区の小野一樹さんも、忙しい毎日を送っています。

「4連棟のハウスが1つ、12a(=1200㎡)ほどで『美濃娘』をつくっています。こっちは高設栽培ですが、他に土耕栽培も10a(=1000㎡)やっていて、合わせて12000株くらいですね。成果は収量として数字に現れるんで、がんばったら返ってくるし、やらなかったら損をする。すべては自分次第なところが農業の面白さかな。」

人なつっこい笑顔でそう語る小野さん。教職経験をはじめ紆余曲折を経てこの道へと転向した、若き新規就農者です。
「岐阜で生まれ育ち、大学進学を機に静岡へ行きました。大学院で博士課程を修了し、静岡県内の公立中学校で国語を教えていたんです。退職後、30歳のとき岐阜へ戻りました。長男として家業を継ぐことも考え、父の営む法律関係の事務所で働きながら夜は専門学校に通って資格取得を目指しました。でも、そもそも勉強が苦手で(笑)。そんなとき目に飛び込んできたのが、『新規就農者募集』と書かれた全農岐阜のポスターだったんです。」

30歳を過ぎて進むべき道を模索していた小野さんにとって、募集案内は文字通り“天からの啓示”でした。農業を始めたいという一大決心を、士業の傍ら趣味で農業に親しんでいたお父さんが後押し。ご家族の理解のもと、小野さんはJA全農岐阜いちご新規就農者研修所の門を叩いたのです。

「研修生は生産技術から農業経営の知識まで、いちご農家になるために必要なことすべてを1年2カ月かけて学ぶんです。全農の連棟ハウスの10a分を実際に担当する形で、一から栽培を教えてもらいました。研修中の受講料が無料なだけでなく、研修期間を終えて独立する際に農地を紹介してもらったり、申請手続きや助成金の交付に至るまでサポートしてもらえたのはありがたかったですね。他の職業だったら、何の実績もカネもコネもない自分が融資を受けることなんて難しいですから。」
新規就農者への手厚い支援によって、自分の道を見いだした小野さん。初年度から目標としていた収量を達成し、いちご栽培の面白さにどんどん魅了されていきました。
「収穫は12月中旬からが勝負。繁忙期は両親が手伝ってくれる他、アルバイトも3人お願いしています。5月いっぱいで収穫期が終わると、6月からは片付けと準備。株をすべて片付け、次の作付けのための土壌消毒を行います。並行して新しい苗の育苗作業。シーズンオフ中の労働時間は長くないですから、年で換算するとサラリーマンより働いていないかもしれません。」
いちご農家では12~5月までの出荷時期に一年分の収入を得ます。
「気づいたらお金が貯まっている感じです。とはいえ、6割近くはハウスなど設備に初期投資した借入金の返済や、肥料・農薬や光熱費などの必要経費分。数年に一度のハウスの張り替えに向けた資金も貯めています。それらを引いても会社勤めくらいの年収にはなるんで、悪くないなと思っています。」

研修所で同期生だった仲間たちは、今や何でも相談し合える同業者。
「いちごを介在することで、世代が違っても上下なく良い関係性が築けるんですよね。もっと産地の知名度を上げ、部会ごとみんなで良くなっていけたら」と、小野さん。気負うことなくいちごづくりを楽しみながら、将来的には法人化も視野に規模拡大を目指します。

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